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「空が鳴っている/女の子は誰でも」ライナーノーツ

自己記録を更新した後、人は何を求め、どこへ向かうんだろう。
4thアルバム『スポーツ』とツアー『ウルトラC』では、あらゆる贅肉をシェイプして音楽を研ぎ澄ませ、その先にある豊かな情動を味わわせてくれた。完全燃焼しきった東京事変は、この後、しばしの休息を得るに違いないというのが大方の予測だったのだが――。ツアー後すぐにドラマ「熱海の捜査官」の主題歌『天国へようこそ』とウォータリングキスミントガムCM第三弾の『ドーパミント!』を配信限定で発表。ほどなく、次回作へ向けて動き出していた。
「『スポーツ』を作る時は(バンドの)脂が乗り始めた時がいいと思っていたし、実際、そうなったと思いますけど……。今思えば、あの作品は、あくまで助走だったんですよね。あの作品をやりきれたからこそ、次からは、いよいよお客さんと共通認識を持てるんじゃないかなと想像していて。音楽を作っていく上では、これからが本番だっていう気持ちがあったから、すぐに動き出せたのかも知れません」(椎名林檎)
そんな彼らの2011年の幕開けとなり、新たなプロダクトの本格的なスタートともなる両A面シングル『空が鳴っている/女の子は誰でも』がリリースされる。第一印象から驚いた。前作で極まったテンションを保ちながらも、いずれも、これまでの東京事変にはなかった色の楽曲だからだ。
『空が鳴っている』は、ギターを核にバンドサウンドが混然一体となって走っていく。ぞくぞくするような切れ味と刹那的なエネルギーを感じさせる。けれど、それは、『閃光少女』のみずみずしい生命力とは似て非なるもの。ギリギリまで追いつめられた時にだけ発動してゆらめく大きな炎のよう。青さと同時に深みと余韻が響いて残る。作曲者は、亀田誠治だ。
「事変の中での亀田曲って、『閃光少女』とか『透明人間』みたいに明るくて胸がキュンとする方向にいっちゃいがちなんですけど、今回は自分の得意分野に行かないようにしたいなと。葛藤しながらも、明るいだけじゃなくて、翳りや冷たさとか、その中にある熱量みたいなものを感じ取りながら作りました」(亀田誠治)
亀田は“ある感情”にインスパイアされてこの曲を生んだのだという。
「その感情が何なのか今は言えない。メンバーにも非公開にしているんです」と言いながらも2つのヒントをくれた。それは、デモ段階でのタイトルは『breast(ブレスト)』だったということ。椎名林檎がつづった歌詞は、亀田が抱いたその感情とほとんど同じだということ。
「示し合わせたわけでもないのに驚きました。僕が気付いていない心理まで詞に描かれていた」。その言葉を受けた椎名は、「全ては音の中にあったから」と。
「編曲のリハーサル中、一緒に歌っている時に詞の中にある心情と映像が浮かんできました。どういう一人称のどういう瞬間なのかっていうことが浮かび上がってきて……。アレンジもそうでしたけど、すべては音の中にあったから書きやすかったです」

  一方、『女の子は誰でも』は、椎名自身が出演もする資生堂のCM曲に決定している。ほんの数分でも、ヨーロッパの上質でチャーミングな映画を1本観終わったような充実感のある1曲だ。椎名の詞曲、東京事変としては初めて外部の服部隆之を迎えて施されたアレンジのすべてに新しい挑戦が感じられる。
「メロディに関してはCMのお話を頂く前に、ぴったりなものが浮かんでいたんですよね。不思議なことに……。アレンジは、第三者が編曲したものを東京事変がプレイするっていうことをしてみたくて、服部さんに依頼する案をメンバーに相談しました」(椎名林檎)
「服部さんのアレンジは本当に素晴らしくて、レコーディングも興奮しました。伝統的なグッドミュージックをきちんと踏まえた上で革新性のある音楽を作られる。小さな時から慣れ親しんでいる伝統的な音楽の軌跡を裏切らずに辿ってくれる。僕はそこが大好きです」(亀田誠治)
‹女の子は誰でも魔法使いに向いている›というフレーズから始まる物語のような詞は、甘さとほろ苦さを備えながらも、女性に対する根源的な愛と慈しみにあふれている。詞の内容も新鮮だけれど、美しき成熟を極める孤高の人という印象の椎名林檎が‹女の子›という呼称を使うことにも驚いた。
「たしかに、20歳くらいの私……アイデンティティの確立に懸命だった頃の私ならば、使いたくない言葉がたくさんあった。“女の子”という言葉もきっと使わなかったと思うんです。でも、その時期を過ぎた今は、とにかく「音楽が恵んでくれた言葉ならば」と受け取れる。たぶん、同じ呼称でも、“女の子”と“レディ”では全部概念が違うでしょう? この曲に関しては、“女の子”じゃないと成立しなかったんだと思います」

年明け、新しいアルバムの制作もいよいよ大詰めを迎えている。この2曲を聴いただけでは、ふり幅が広すぎて、まだ想像もつかない。けれど、東京事変は更新した自己記録にこだわることなく、すでに新たな地平を走っている。新たな音楽の極みを見つけるために。

(芳麗)